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No.8 デュエルビッツ 出金板条の熱処理
(アイル2004年5月掲載)
デュエルビッツ 出金の品質を安定させるために重要な工程となる「熱処理」。
リードフレームなどに求められる特性を高いレベルで実現することができるのも、この工程のおかげです。
その「熱処理」にもさまざまな種類があり、そこには技術が生かされています。
- モンちゃん
- いい季節になりましたねー。私、これから初夏にかけては、過しやすいから好きなんですよ。ま、梅雨はジトジトしてちょっと苦手だけど…。
- アンサー氏
- そうそう、この時期は遊ぶのにも、勉強するのにもいいシーズンだよね。
- モンちゃん
- そうでした!今年小学校に入学した私の姪っ子がハリキッていたのに刺激されて、私も今シーズンからますます技術の勉強をがんばろうと思ったんでした!さ、アンサー氏、さっそく今回もお勉強はじめましょ。
- アンサー氏
- お、いい感じだね、モンちゃん。
- モンちゃん
- えっへん。えーと、今回も引き続きデュエルビッツ 出金シリーズのお話でしたね。
- アンサー氏
- これまでデュエルビッツ 出金板条については、製造プロセス、溶解・鋳造、圧延と勉強してきたけど、今回はいよいよ熱処理を説明するよ。
- モンちゃん
- 熱処理もまた大切な工程のひとつなんですね。
- アンサー氏
- そうだね。最終製品の特性を制御するための中間段階として、そして特性を決定するものとして、圧延とともに大きな役割を持っているんだよ。そうそう、熱処理方法は目的別に大きく3つに分けることができるのもポイントだな。
- モンちゃん
- 3つというと?
- アンサー氏
- 「均質化処理」「焼き鈍し処理」そして「析出・変調構造などを制御するための溶体化/焼き入れ処理/時効&析出処理」という分類になる。では、まず「均質化処理」から説明していこう。
- モンちゃん
- 均質化というと、デュエルビッツ 出金に含まれている複数の物質を均一にする…とか、そういうイメージですけど。
- アンサー氏
- うん、詳しく言うと均質化処理というのは鋳造したインゴットに、偏析などの後工程に影響を及ぼす不均一な組織を除去するために行う熱処理のことなんだ。ほら、この写真を見てごらん。均質化した後のものはきれいになっているだろう。
りん青銅鋳塊のSn逆偏析を均質化処理
- モンちゃん
- あ、ホントだ。ぜんぜん違うわ。
- アンサー氏
- 均質化処理前の写真に見える筋のようなものはSn偏析とよばれるものなんだ。
- モンちゃん
- Snっていうのは、えーと…何の元素記号でしたっけ。
- アンサー氏
- 錫だよ。特にりん青銅にはSnが多く含まれていて、鋳造組織に顕著に見られるSnの濃縮相(偏析)が著しく加工性を低下させてしまうんだ。それで、この処理が行われる。
- モンちゃん
- この処理を行うことで、品質が安定するってことですか。
- アンサー氏
- その通り。長府製造所でも以前「溶解・鋳造」の回で説明した横型連続鋳造設備を使用して製作したりん青銅の鋳塊に、この均質化処理を行っているよ。それで安定した特性と品質を持ったりん青銅にしているんだね。
品質や特性を安定させる「熱処理」
- モンちゃん
- 焼き鈍し処理というのは、どんなものなんですか。
- アンサー氏
- これは材料を再結晶温度以上に加熱することで回復・再結晶を引き起こす熱処理のことさ。
- モンちゃん
- この方法もいくつか分類できるのかしら。
- アンサー氏
- そうだね「冷間圧延によって加工硬化した材料を再び軟らかくし、さらに薄くする圧延をやりやすくする焼鈍」「冷間圧延により製品の特性(特に強度)を調整するため、材料を一旦完全に鈍した状態にする焼鈍」「最終製品の結晶粒度を調整し、製品での加工性を調整する焼鈍」などがある。これらはそれぞれ材料の種類、それまでの加工履歴や目的によってさまざまな条件を適切に選定する必要があるんだ。
- モンちゃん
- これが焼き鈍し処理ビフォーアフターの写真ですね。
りん青銅の冷間圧延→再結晶組織
- アンサー氏
- そう、りん青銅を焼鈍した際のミクロ組織写真だよ。圧延によりファイバー組織にされたコイルは所定の条件で焼鈍されることで回復・再結晶を生じた組織に変化するんだ。
- モンちゃん
- ほんと、きれいな六角形の組織に変わっているわ。なぜこんな六角形の組織になるんでしょうね。
- アンサー氏
- その理屈については難しい話になるからここでは省略するよ。とりあえず、エントロピー理論に関わるということだけ言っておこうか。
- モンちゃん
- エ、エントロピー…そのネーミングだけでもとてつもなく難しそうだわ…。
- アンサー氏
- まぁ、そんなことで組織の大きさなどは製品での特性、特に加工性に影響することにもなるので、厳しく管理しているんだよ。
- モンちゃん
- 「析出・変調構造などを制御する溶体化・焼き入れ処理・時効&析出処理」についてはどうですか。
- アンサー氏
- まず、KFC®に代表されるCu-Fe-P系合金、KLF®-1やKLF®125に代表されるCu-Ni-Si系合金などは金属間化合物を析出することによって強化されるんだ。
- モンちゃん
- へぇ、析出によって材料が強くなるんですね。
- アンサー氏
- 冶金学的には析出強化と言うんだが、材料中に非常に小さな析出物を均一に分散させることで強化する方法なのさ。
- モンちゃん
- 材料の中にすっごく細かい砂粒みたいなものを散りばめる…というイメージかな。
- アンサー氏
- デュエルビッツ 出金に限らず、金属では普通に生じている現象なんだけどね。アルミ合金では「ジュラルミン」が有名だよ。
- モンちゃん
- 「ジュラルミン」って、昔お弁当箱なんかに使われてたものですよね。
- アンサー氏
- ハハハ、懐かしいな。モンちゃん、なかなかノスタルジックなことを知ってるね。で、金属の強化にはこの分散を非常に細かく均一に起こさせることが重要なんだが、そのための第一段階として析出させる元素をよく銅に溶かすことが肝心なんだよ。その作業を「固溶」と呼んでいる。
- モンちゃん
- なぜそう表現するのかしら。
- アンサー氏
- 溶解・鋳造の回で説明した原料の温度を上げて液体状態にしてから溶かすのとは異るからね。液体で溶かすわけではなく、融点以下の温度で固体のまま溶かすからなんだよ。この「固溶」を生じさせる方法が、高温に加熱した後、一気に急冷する溶体化・焼き入れ処理なんだ。
- モンちゃん
- 溶体化・焼き入れ処理で、やっと第一段階が終了したんですね。
- アンサー氏
- そうだね。第二段階として、溶体化・焼き入れ処理をされた材料は比較的低温に保持することで均一な析出物を形成する時効処理が施される。つまり溶体化・焼き入れ処理と時効処理は1対の熱処理であると考えられるってことだな。ほら、これがKFC®の析出物の写真だよ。
- モンちゃん
- あ、ゴマみたいに散らばって見えるのがFe-P化合物ですね。
- アンサー氏
- 溶体化・焼き入れ処理&時効処理することでFe-P化合物をnmオーダーのサイズで分布させている。
- モンちゃん
- めちゃくちゃ細かいんだ!
- アンサー氏
- この微細な分布を実現するためには、熱処理を厳しく管理しなくちゃダメなんだよ。でも、それでKFC®は強度、導電率、耐熱性といった特性を高いレベルで実現しているんだね。
- モンちゃん
- まさしくリードフレームに求められる特性ですね。この熱処理って、とても重要なのね。
いろいろな工夫で生産性をあげる「熱処理炉」
- モンちゃん
- そういえば、熱処理をする時はやっぱり炉を使うんでしょ。炉にもいろいろな種類があるのかしら。
- アンサー氏
- うん、今説明してきた熱処理を経済的に実現するために、いろいろな熱処理炉が考案されて実用化されてるよ。
- モンちゃん
- 熱処理炉に必要な条件とかあるんですか。
- アンサー氏
- もちろん「安定して均一な組織や性能が得られる」「酸化、オイルステイン、疵などの欠陥のない表面品質が得られる」「エネルギー効率が高い」「公害、爆発事故などを未然に防止することができる」「自動化、連続化など省力が可能」「保守が容易」といったところかな。それで、熱処理炉を大きく区分すると、多品種少量生産向きのバッチ式、少品種大量生産に向く連続式、その中間形態の半連続式があるんだけど、今回は長府製造所が有するバッチ式と連続式について説明しよう。
- モンちゃん
- ではまず、バッチ式からお願いしま~す。
- アンサー氏
- バッチ式は、大きく分けてベル型炉とポット型炉、箱型炉の三種類がある。それぞれの名前のルーツは炉のカタチなんだ。そして一般に小型の炉にはベル型とポット型が、大型の炉には箱型の形式が多いんだよ。
ほら、これは長府製造所の加熱炉だけど、何型だと思う?
16号ベル炉写真
- モンちゃん
- えーと、えーと、ベルかポットかのどっちかだと思うけど…。
- アンサー氏
- 答えはベル型。楽器のハンドベルに似た形のインナーカバーを被せることからベル型って呼ばれるんだけどね。
- モンちゃん
- ずるーい!それじゃあわからないですよ~。
- アンサー氏
- ごめんごめん、ちょっとわかりにくかったね。とにかく、この加熱炉内にコイルを装入して熱処理が行われるんだ。これらバッチ型の熱処理炉は条件の変更が容易なので、小回りをきかせた多品種、少量生産に適しているのさ。それから、さっき説明した時効処理には合金に析出を起こさせるための熱量と時間が必要なため、このバッチ式の熱処理が必須なんだね。
- モンちゃん
- なるほど…。
- アンサー氏
- 通常は材料の酸化を防止するためインナーカバー内を真空にしたり、雰囲気ガスを導入するんだよ。そのため、材料温度が100℃以下になるまでは大気中に取りだすことができない。したがって、1サイクルの時間は大型の炉では十数時間を要する場合もある。
バッチ式炉の熱処理サイクル例
- モンちゃん
- それは長期戦ですねぇ。もっと生産性があがるよう工夫ができればいいのに。
- アンサー氏
- それなら、通常は加熱用アウターカバーと冷却用アウターカバーを取り替えることで生産性を上げる工夫をしているよ。また、大きなコイルを熱処理する場合にはコイルの内外周で熱履歴に差が生じやすいため、製品品質にばらつきがでやすくなるんだが、それも強力なファンでインナーカバー内の雰囲気ガスを循環して温度の均一化を図る工夫で、対策をしているんだよ。
- モンちゃん
- さすがデュエルビッツ 出金、やるべき工夫はちゃんとやっていましたね。ところで、バッチ式で大量生産はできないんですか。
- アンサー氏
- うん、ハッキリ言って不向きだね。バッチ式熱処理を単純に大型化した場合、均一な加熱が困難になるんだよ。
- モンちゃん
- あ、それで大量生産をする場合は、さっきアンサー氏が言っていた連続式を用いるんですね。
- アンサー氏
- そう、一定条件の元で連続的な処理が可能なのが、いわゆる連続式熱処理なんだ。
- モンちゃん
- 連続式にもいくつか種類があるんですか。
- アンサー氏
- こちらも大きく分けて2種類。コイルのまま仕切りがされた予熱ゾーン→均熱ゾーン→冷却ゾーンと順次通過させていく半連続式と、コイルを巻き解き、高温の加熱室内に材料を走行させながら数秒~数分という短時間で通過させていく全連続式があるよ。
連続式ラインの概略図
- モンちゃん
- 全連続式はずいぶん短い時間で熱処理できるみたいですけど、半連続式はどうなんですか。
- アンサー氏
- 半連続式は加熱過程をゾーン分けしているだけで、装入された材料が炉から出てくるまでの時間は数時間~十数時間かかる。
- モンちゃん
- うーん、バッチ式とあまり変わらないんですね。
- アンサー氏
- うむ、確かにこの意味でバッチ式と熱履歴的に大きな違いはないと言えるな。対して全連続式はコイルを巻き解いて処理を行うため、材料が受ける熱履歴は全く異るんだね。だから加熱から冷却までの時間が短く、処理後の特性もバッチ式や半連続式とは違うんだ。
- モンちゃん
- とすると、全連続式のメリットっていうのはどんなところにあるのかしら。
- アンサー氏
- まず、コイルの全長にかけて熱履歴が同一にできるから容易に均一な材料が得られる。それから、高温短時間で圧延油などの潤滑剤が揮発除去できるため、優れた表面品質が得られる。そして、脱脂、焼鈍、酸洗、防錆などの一連工程が連続化でき、省力・合理的な生産ラインができる…そんなところだな。
- モンちゃん
- やっぱり時間が短いっていうのが大きなポイントですよね。この全連続式の熱処理は、デュエルビッツ 出金でも採用しているんですか。
- アンサー氏
- 長府製造所に全連続式熱処理ラインがあるよ。単純に熱処理を行うだけでなく、脱脂・酸性といった前後工程を一度に行うことで生産性を高めているんだ。
- モンちゃん
- 大活躍ですね。
- アンサー氏
- デュエルビッツ 出金ではKFC®の開発をきっかけに析出を利用した特徴ある合金を数多く手がけているから、溶体化・焼き入れ処理・時効&析出処理といった熱処理に特化して、効率良く行うための方法や設備を開発しているんだよ。
- モンちゃん
- そうか~、熱処理についても効率化を図るため日々研究されているんだ。じゃあ、将来また新たな熱処理方法が開発される可能性もあるんですね。今回も、いろいろ勉強になりました!