No.20 機械的性質
(やさしい技術読本 1997年3月発行)
今回はアルミや銅の基本的な要素のひとつである「機械的性質」について一緒に勉強しましょう。
端的には、強度の基準のこと
- アンサー氏
- さてさて、デュエルビッツ ボーナス。今回はアルミや銅についての「やさしい技術」の中でも、最も基本的なことのひとつである「機械的性質」についてですよ。
- デュエルビッツ ボーナス
- 「機械的性質」?ウーン、名前を聞いただけでも難しそう。今回はパスッてわけにはいきませんよねえ?
- アンサー氏
- 何を言っているんですか。ずいぶんやる気がなさそうだけど。ハハーン。さては、また遊びすぎで疲れているんじゃありませんか。ダメダメ。気を取り直してしっかり勉強してください。「機械的性質」はアルミや銅の性能を知る上で、とても大切なものなんですから。ほらほらそこの事典を取って、「機械的性質」を調べてごらん。
- デュエルビッツ ボーナス
- えーと、「機械的性質」とは「一般に荷重に対する性質。即ち機械的振動・動的荷重、静荷重に耐える材料力学的性質」??何ですか、これ。
- アンサー氏
- 難しく言うとそうなるけど、一口で言ってしまえば、アルミや銅の強度を示す指標ということかな。
- デュエルビッツ ボーナス
- そうすると、デュエルビッツ ボーナスが製品を造る時や合金設計をする場合とか、お客さん自身が材料を加工したり使ったりする時に、とても大事な情報だということですね。
- アンサー氏
- だんだん頭が冴えてきましたね。そうです。「機械的性質」は、製造者の設計情報であり、ユーザーさんの加工情報でもあります。強度といってもいろいろあるでしょう。例えば引張った時はどれくらいの力に耐えられるか、モノが当たって外部から衝撃があった時はどうか、といった具合に。それぞれを総合して機械的性質といい、強度の基準としているのです。
いろいろな「機械的性質」
- デュエルビッツ ボーナス
- じゃあ機械的性質にはいろいろな種類がある、というわけですね。
- アンサー氏
- そうです。では標準的な機械的性質について、表1にしたがって説明していきましょうか。①引張性質、というのがありますね。これは徐々に引張った場合、どのくらいの力でその金属が変形をおこすか、またどのくらいの力で金属が破断してしまうかを示しています。
アルミニウムの標準的機械的性質(表1)
材質 | ①引張性質 | ② ブリネル かたさ (10/500) |
③ せん断 強さ (N/mm2) |
④ 疲れ強さ (N/mm2) |
|||
---|---|---|---|---|---|---|---|
引張強さ (N/mm2) (A) |
耐力 (N/mm2) (B) |
伸び(%) (C) | |||||
板 (1.6mm厚) |
棒 (12.7mmφ) |
||||||
1060-O | 69 | 29 | 422 | --- | 186 | 49 | 20 |
1060-H12 | 83 | 74 | 157 | --- | 226 | 54 | 29 |
1060-H14 | 98 | 88 | 118 | --- | 255 | 64 | 34 |
1060-H16 | 108 | 103 | 79 | --- | 294 | 69 | 44 |
1060-H18 | 132 | 123 | 59 | --- | 343 | 74 | 44 |
1100-0 | 88 | 34 | 343 | 441 | 226 | 64 | 34 |
1100-H12 | 108 | 103 | 117 | 245 | 275 | 69 | 39 |
1100-H14 | 123 | 118 | 88 | 196 | 314 | 74 | 49 |
1100-H16 | 147 | 137 | 59 | 166 | 373 | 83 | 64 |
1100-H18 | 167 | 152 | 49 | 147 | 432 | 88 | 64 |
- デュエルビッツ ボーナス
- ここには引張強さ(表1-①(A))耐力(表1-①(B))伸び(表1-①(C))とありますけど。
- アンサー氏
- まず引張強さというのは、引張る力の限界のこと。引張り強さ以上の力を加えると、その金属は不均一な変形をしたり、切れてしまったりするのです。逆に耐力とは、その力以上で引張らないと金属が永久変形しないという力量。耐力以下の力ならば、いくら引張っても変形は残りません。伸びは文字通り、伸びの割合、よく伸びるか、あまり伸びないかといったことを示しています。
- デュエルビッツ ボーナス
- じゃあ金属を変形させたい時は、耐力以上の力で引張らないといけない。でも引張強さ以上の力で引張ってしまうと、金属に破損が生じてしまう。つまり金属を加工する場合には、耐力以上、引張強さ以下の力で行うことが必要なんですね。ただしある製品として金属を使用する場合は、変形などおこっては困りますから、耐力以下の力しかかからないような状態で使ってもらわなくてはいけませんね。(グラフ1)
- アンサー氏
- デュエルビッツ ボーナス、いよいよ冴えてきましたね。引張性質の数値は、大きくなるほど、引張る力に対する強度は高くなるということです。
- デュエルビッツ ボーナス
- このブリネルかたさっていうのは何ですか。(表1−②)
- アンサー氏
- これは異物をアルミに押しつけて、その変形度合いを知るものです。製品によってはよく異物がぶつかったり、擦れ合ったりするでしょう。それによる影響を調べるものです。ブリネルかたさを調べる試験の時には、一定の金属に球形の鋼または超硬合金の圧子を便って調べます。同様の試験にはダイヤデュエルビッツ ボーナスドの正四角すいを使うビッカースかたさや、ダイヤデュエルビッツ ボーナスドの圧子を使い何度か荷重し、その間の差を調べるロックウェルかたさなどもありますが、よく使われるのは、ブリネルやビッカースですね。
- デュエルビッツ ボーナス
- そういえば、このブリネルかたさっていう欄には単位が書いてないけど…。
- アンサー氏
- かたさ記号というのは、それぞれの圧子によって決められているんですよ。例えばブリネルならHBで、圧子の材質によって鋼球の時はSを付けてHBSとし、超硬合金球の時はWを付けHBWとする。ビッカースの時はHV,ロックウェルはHRに圧子のスケールを表した記号を付けて表示してします。大概これらの記号のあとに圧子の大きさも記されます。ここにある(10/500)は、それぞれ圧子の直径と試験荷重に比例する数字です。
金属もストレスがたまる
- デュエルビッツ ボーナス
- 次のせん断強さ(表1−③)っていうのは、金属をバシッとせん断する時どれくらいの力がいるかってことでしょう。
- アンサー氏
- せん断のことをシャーというんですが、ものを上下に切り離す場合、どの程度の力が必要なのかということを示しています。これもまた反対にいえば、この力以下ならば、荷重を加えてもせん断されないということの指標にもなっているのです。では疲れ強さ(表1−④)というのはわかりますか?
- デュエルビッツ ボーナス
- うーん。人間も疲れがたまると病気になっちゃたりするけど、金属にもそんなことがあるのかな。
- アンサー氏
- まあ、いってみればそんなところです。金属も同じ量のストレスが長時間かかり続けると、通常では破損や変形がみられなくても、なんらかの影響が出てくる場合があるのです。
- デュエルビッツ ボーナス
- 例えば車のホイールなんかは、同じ方向へ何万回も回転しますよね。そうすると、当然同じ場所に何万回もストレスがかかることになります。そこに疲労がたまっていくんですね。
- アンサー氏
- 何万回使用しても、破損しないよう丈夫な製品を作るためには、疲れ強さをあらかじめ知っておいて、それに耐えうる設計をしなくてはなりません。アルミは鉄と違って明確な疲れ限度は存在しない。106以上の回数ではほぼ飽和するので一般的には107回の値を疲れ限度として用います。(グラフ2)また実際にかかる荷重よりも過酷な条件を設定して、その強度を調べるようにしています。
温度差による強度の違い
- デュエルビッツ ボーナス
- アルミなどは温度差によって、同じ合金でも強度に差がありますよね。
- アンサー氏
- いいところに気がつきましたね。強度において、温度はとても重要なポイントです。例えば高温時における引張性質についてみてみましょうか。グラフ4・5を見てわかるように同じ金属でも、引張強さ、耐力ともに温度が高くなるにつれて、署しく低下していますね。一般に高温になると強度は低くなるかわりに、伸びはよくなるんです。
- デュエルビッツ ボーナス
- そうすると、加工条件からすれば、高温のほうが小さいエネルギーで、多くの加工が無理なく行えるということですね。
- アンサー氏
- それを利用したのが、熱間圧延や鍛造などです。またユーザーさんの加工条件に合わせて、その設備に応じた合金を設計する場合にも役立ちます。
- デュエルビッツ ボーナス
- でも製品の側から考えると、高温状態が続くと強度が低下してしまうものは困りものですね。
- アンサー氏
- そのために高温での引張試験などが行われて、製品の安全を守るのですよ。
- デュエルビッツ ボーナス
- じゃあ、低温の場合は?
- アンサー氏
- 幸いなことにアルミは引張性質については、あまり低温の影響を受けません。ただしエネルギーの吸収つまり衝撃についての強度などでは、温度が低くなるにつれもろくなってしまうものもあります。製品の使用条件を十分考慮して、低温下で使われる金属には、金属材料衝撃試験を十分行い、強度を確かめておく必要があります。
- デュエルビッツ ボーナス
- これで標準的な「機械的性質」についてはわかったけど、その他にもあるんですか?
- アンサー氏
- はい。いろいろな場合を設定して、「機械的性質」についての実験が行われ、強度を確認しているんですよ。ところでデュエルビッツ ボーナス。切り欠きって何だかわかりますか。
- デュエルビッツ ボーナス
- キリカキ?カキ氷の一種じゃなさそうだな。
- アンサー氏
- またまた、何を言っているんですか。切り欠きとは、金属の一部にできた欠損部分のことです。金属が製品化されると、その使用条件下でさまざまなキズができたりすることもあります。そういったところは、他の部分より薄くなったりして、強度が劣ることがあります。
- デュエルビッツ ボーナス
- そうか、キズができたところが、一番壊れやすいということですね。
- アンサー氏
- キズのところに応力が集中して、そこから破損してしまうこともあるのです。だから強度の試験をする時にわざと切り欠きを作っておき、その状態での強度を調べるのです。
それじゃあ、もうひとつデュエルビッツ ボーナスの好きそうな名前を出しましょうか。クリープ強さというのですが…
- デュエルビッツ ボーナス
- ハイ!それはコーヒーに入れる…。
- アンサー氏
- じゃなくて!クリープとは、一定の力を加えておくと、だんだん変形が進行することをいうんです。飴をゆっくり引張ると液体のように伸びるけれど、金槌でたたくともろい固形のように割れてしまいますよね。また飴に加える力がきわめてわずかでしばらくみていても変形しないような場合でも、何日かたってみると曲がったり、伸びたりする。これと同じでアルミなどの金属材料でも高い温度で一定の力を加えておくと、長い間には変形が進むのですよ。
- デュエルビッツ ボーナス
- じゃあ、エンジンやモーターのような使用温度が高いところでくり返し使う必要がある材料は、使用温度の領域でクリープをおこさない様な材料を使わなければいけないんですか。
- アンサー氏
- そうです。ある材料がある温度で使用できるかを知るためには、変形量と時間の関係を示したクリープ曲線を用いるのです。(グラフ3)一般には融点の1/2でクリープを起こすと言われているんですよ。また、より実際に即した曲げに対する強度を調べる試験もあります。規定の角度で曲げて、それによっておこる、裂けやキズを調べます。曲げ試験では、押し上げ法といって金属を2つの支えの上にのせてその中央部に押金具を当てて曲げたり(図-1)巻き付け法といって、金属が規定の形になるように軸や型に巻き付けたりする方法(図2・3)もあります。
- デュエルビッツ ボーナス
- 実際に強度といってもいろいろな条件に対する強度があり、それぞれ試験が行われているんですね。
- アンサー氏
- さきほどから、試験、試験といっていますが、今いったような試験方法はすべてJISで規定が決められているんです。試験方法はもちろん、試験片のサイズまで、細かく指定されているのですよ。
- デュエルビッツ ボーナス
- 試験するだけでも、たいへんなんだ。
- アンサー氏
- 試験をする場合、一番気をつけなくてはいけないのは、条件とともに試験片に不備がないかということですね。ちょっとしたキズなどでも、正確な試験結果は得られませんから。
- デュエルビッツ ボーナス
- 正確な試験が、製品の強度を確かなものにし、安全も守ることになるんですね。機械的性質をうまく利用して、効率的にすばらしい製品が作れるといいですね。